ゆゆ式

 

さかしま (河出文庫)

さかしま (河出文庫)

 

 

 19世紀末のフランス人作家ユイスマンスの小説。ユイスマンスは耽美主義、反写実主義、厭世思想、世紀末思想といったキーワードで括られる象徴派の作家で、つまり僕の大好物である。
 浮世に嫌気がさした貴族が田舎でステイホームして思索に耽るだけの話で、物語的な面白さは何もない。今風に言えば日常系4コマの仲間かもしれない。カメを飼ったり(すぐに死ぬ)、孤独に飽きて数日間旅に出たり、歯医者が痛かったことを思い出したり、体調を崩したり、どうでもいい退屈なことばかりがやたら美しく書かれていて素晴らしい。誰にも勧めるつもりはないがただ好みの小説だったので書いておく。個人的にはモローやルドン、ポオといった僕の好きな作家への言及があった第5章が特に好き。

 

 以前より本を読むようになってますます思う。倫理観を問う、驚きの結末、社会問題に一石を投じる、決死の戦い、大金をめぐる駆け引き、熱い友情や愛の物語......僕にとってそういった触れ込みの作品はどれも印象に残らない。途中で見るのを辞めてしまう。「何か」が静かに美しく横たわっているだけの作品は良い。自分でもそういうものを書きたい。