Story

鳩の話

私にとってなにより不愉快であったのは、あのバチバチとうるさい鳩それ自体ではなく、むしろ、その生態や危険性について――なぜあの鳩は電気をまとい、雷のように発光しながら飛び回っている?――何の疑問も呈さず、声をあげない町民の方であった。 確かに人が…

トロンプルイユのカーテン

くぐり抜けた何枚目かの扉は、これまでにもまして奇妙な場所と繋がっていました。全くこの世界は不可思議で満ちており、「もう二度と驚かされはしない」と、アリスは豪奢な扉に手をかけるたび心の中で誓うのですが、行く先々で「最も驚きに満ちたもの」と出…

《苦悶の泉/Font of Agonies(RNA)》

ヤコブの子、イスラエルの民が主の統治を忘れ、異教の偶像に執心していた頃、カナンの南方に位置にする森の泉にうなだれる男があった。彼は豪族の独り子であり、一時は何の不自由もない裕福な暮らしをしていたが、その富を妬む者たちの裏切りにあい、今では…

時に岸なし

ところで旅のお方、遠くから来られたとのことであれば、我々を運ぶ汽車がこれから通過する古橋についてはきっとご存知ないでしょう。窓の外をご覧ください。樹々のあいだに立ち込める霧が一層深くなってきたようです。この路線に乗り慣れているものは、みな…

《血染めの月/Blood Moon(A25)》 3

既に良い時間であったため、その日は彼の屋敷に一泊することになった。先ほどの召使いが嫌に静かな足取りで案内してくれた部屋は、以前にも何度か寝泊りしたことのある二階の角部屋であった。これは彼の気遣いだったのだろうか、自室とまではいかないものの…

《血染めの月/Blood Moon(A25)》2

ウォレスはストラスブールの旧家の生まれで、私たちはカトリックの学校で知り合った。学校を卒業した彼はすぐに父が所有する織布工場で経営を学びはじめ、ついにはその立派な後継ぎとして、多くのものがその名を知るところとなった。 彼は骨董の収集に凝って…

《血染めの月/Blood Moon(A25)》1

いつか正気を失った私がこの街のどこかで野垂れ死ぬとすれば、警察か、探偵か、あるいは物好きな変わり者か、誰であれ私の家を探し当て、その変死の原因を探りに来るものがいるであろう。そのものが扉を開く日に備え――そしてその日はそう遠くないものと思わ…

《嵐雲のカラス/Storm Crow(7ED)》

荒れ狂う風雨がかれこれ一時間は窓を叩き続けている。いつものようにソファで本を読んでいるさいか様も、ごつんごつんという窓の悲鳴が読書のお供ではページの進みがよろしくないようだ。数分おきに本を閉じては、コーヒーがなみなみ入ったマグカップを手に…

オムライスが食べたい

いいね!そうしよう。僕もオムライスが食べたい。あれ、どうして僕はオムライスが食べたいんだろう?ラーメンでもカレーでも無く...... はいはい、いいからオムライスを食べに行こう!ホワイトソースがたっぷりかかったヤツ! ホワイトソースいいね。僕もそ…